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仙台高等裁判所 平成2年(ネ)466号 判決 1992年1月27日

控訴人(被告) Y

被控訴人(原告) X1

被控訴人(原告) X2

被控訴人(原告) X3

右三名訴訟代理人弁護士 長岡壽一

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、控訴人

1.(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人らの請求を棄却する。

2. 被控訴人X1及び同X2の当審における新請求を棄却する。

3. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二、被控訴人ら

1. 本件控訴を棄却する。

2. 控訴人は、被控訴人X1及び同X2に対し原判決別紙物件目録一記載の建物を、同X1に対し同二記載の建物を各明け渡せ(当審における予備的新請求)。

3. 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、請求原因

1.(一) 被控訴人X1は、原判決別紙物件目録一記載の建物(以下「本件一の建物」という。)につき二分の一の共有持分権を有し、同目録二記載の建物(以下「本件二の建物」という。)を所有している。

(二) 被控訴人X2及び同X3は本件一の建物につき各六分の一の共有持分権を有している。

2.(一) 被控訴人X1は、本件一の建物に平成元年九月まで居住し、本件二の建物を理容店店舗として自己使用してきた。被控訴人X2は平成元年九月まで本件一の建物を住居用として同X1と共同で使用してきた。

(二) 控訴人は、平成元年九月六日、本件一の建物に強引に住み入り、内部の家財の大部分を自己のものに移し替え、電話番号、表札、出入口の鍵を替えるなどして自己のほしいままに専有使用し始め、被控訴人X1及び同X2を同建物から追い出し、その入居を拒絶するに至った。このため、同被控訴人らは、平成元年九月一六日限り本件一の建物の使用ができない状況におかれた。

(三) 控訴人は、平成元年九月、本件二の建物につき、鍵を損壊して使用不能として、出入口を閉鎖するなどして、被控訴人X1がこれを使用することができない状態にして同被控訴人の占有を排除し、自己の占有管理下においた。

3. 本件一の建物の賃料相当額は、一日当たり一二〇〇円を下らない。

4. よって、(一)被控訴人X1及び同X2は控訴人に対し、主位的に本件各建物の共有持分権及び所有権に基づき、予備的に占有権に基づき、同各建物の明渡しを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、控訴人の占有開始後の平成元年一〇月一日から本件一の建物明渡しまで、一日につき、被控訴人X1に対し六〇〇円、同X2に対し二〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを各求め、(一)被控訴人X3は控訴人に対し、本件一の建物の共有持分権に基づき同建物の明渡しを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、控訴人の占有開始後の平成元年一〇月一日から同建物明渡しまで一日につき二〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2.(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、控訴人が本件一の建物の電話番号、表札、出入口の鍵を替え、平成元年九月六日同建物の占有を開始し、同月一六日以降同建物を単独で占有していることは認め、その余の事実は否認する。

控訴人は、亡父Aから生前山形に落ち着けと言われたため平成元年九月六日に帰省したものであり、翌七日及び八日に本件一の建物に控訴人の荷物を運び込んだが、被控訴人X1は抵抗していない。控訴人は被控訴人X1と平穏に同居したいと考えていたが、同被控訴人の方から控訴人に対する嫌がらせがあったため、同被控訴人の同居を拒否したところ出ていったものである。電話は、被控訴人X2から嫌がらせの電話が頻繁にかかってきたために、控訴人が番号を変更したものである。表札は、亡Aのものを取り外し、被控訴人X1が同建物を出た後、郵便受けの名札を控訴人夫婦の名前に変えたものである。出入口の鍵については、同被控訴人が同建物を出た後、被控訴人らの侵入を防ぐために替えたものである。

(三) 同(三)の事実のうち、控訴人が平成元年九月、本件二の建物を占有していたことは認め、その余の事実は否認する。

3. 同3の事実は不知。

三、抗弁

1.(一) 控訴人、被控訴人X2及び同X3は、同X1及び亡A間の子であり、被控訴人X1は亡Aの妻である。

(二) 亡Aは本件一の建物を所有していたが、昭和六二年一〇月一九日に死亡したことにより、控訴人は同建物の共有持分六分の一を取得した。

(三) 被控訴人らの本件一の建物の明渡し請求は共有持分権に基づくものであるところ、持分の価格が過半数を超える場合であったとしても、控訴人も民法二四九条により共有物たる同建物全部につきその持分に応じて使用をすることができるのであるから、被控訴人らは控訴人に対し明渡しの請求をすることはできない。

2. 控訴人は被控訴人X1に対し、平成二年一〇月一七日、本件二の建物を明け渡した。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1(一)及び(二)の事実は認め、同(三)は争う。

2. 同2の事実は否認する。控訴人は、仮処分の執行により本件二の建物を明け渡したものである。

五、再抗弁

被控訴人X1及び同X2は本件一の建物の共有持分権を有しており、この権利に基づいて同建物を使用していた。同X3は、同X1及び同X2の右使用を承諾していた。

他方、控訴人は、長年東京方面で生活を営み、実家である本件一の建物に居住することはなかった。更に、亡Aの病気及び死亡に際しても、実家に戻ることはなかった。同時に、控訴人は、同建物のこのような使用状況を知っており、これを認容していた。しかし、控訴人は自己の一方的な都合により、突然帰省して同建物内に住み入り、その直後、被控訴人X1及び同X2を実力で排除して同建物を専有するに至った。

控訴人の右行為は、共有持分権に基づき本件一の建物を使用し占有し、あるいはそれを承諾していた被控訴人らに対する不法行為であり、権利の濫用である。

六、再抗弁に対する認否

争う。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、本件一の建物に関する請求について

1. 被控訴人X1が、本件一の建物につき二分の一の共有持分権を有しており、被控訴人X2、同X3が同建物につき各六分の一の共有持分権を有していること、控訴人が、平成元年九月六日同建物の占有を開始し、同月一六日以降同建物を単独で占有していることは当事者間に争いがなく、被控訴人X1の当審における供述によると、同建物の賃料は一日当たり一二〇〇円を下らないことが認められる。

2. そこで、抗弁1につき判断するに、控訴人、被控訴人X2及び同X3は、同X1及び亡A間の子であり、被控訴人X1は亡Aの妻であること、亡Aは本件一の建物を所有していたが、昭和六二年一〇月一九日に死亡したことにより、控訴人が右建物の共有持分六分の一を取得したことは当事者間に争いがない(抗弁1(一)及び(二)の事実)。

したがって、控訴人は、特段の事情がない限り、右持分に基づき本件(一)の建物を使用する権原を有すると一応いうことはできる。

3.(一) しかしながら、<証拠>並びに弁論の全趣旨によると次の事実を認めることができ、甲九号証の記載及び控訴人の当審における供述中、右認定に反する部分は右採用各証拠に照らし作用しない。

(1)  被控訴人X1は、大正一二年生まれの女性であるが、昭和二三年に大工を営む亡Aと婚姻し、同人との間で昭和二四年に長男控訴人を、昭和二五年に次男被控訴人X2を、昭和三三年に三男同X3を儲けた。同X1は、亡Aと本件一の建物で生活を共にして、控訴人を含む子供達を育て、同建物に隣接する本件二の建物で理容業を営んできた。

(2)  被控訴人X2は昭和五〇年頃から神経衰弱様状態のため山形市内所在の病院で加療するようになり、昭和六一年七月からは同病院に入院したが、月に六日から一二日間位本件一の建物に帰宅して自宅療養もしていた。また、被控訴人X3は、昭和五七年にBと結婚するまでは本件一の建物に居住していたが、結婚後は、同女の父母の養子となり山形市内で被控訴人X1とは別れて生活をしている。被控訴人X2、同X3は亡Aが昭和六二年一〇月一九日に死亡して以来、被控訴人X1が本件一の建物に居住することを容認している。

(3)  控訴人は、昭和四三年頃から東京方面で生活をするようになり、以来本件一の建物に居住することはなかった。控訴人は、昭和五五年頃からは、被控訴人らとの接触もなくなり、昭和六一年にCと被控訴人らには知らせることなく結婚し、被控訴人X1からの亡Aが昭和六二年四月に入院した旨の通知に対しても何らの応答をなさず、同年一〇月一九日に同人が死亡したとの電報に対しても何の対応をせず、葬儀にも参列しなかった。

(4)  控訴人は、平成元年八月下旬頃、被控訴人X1に架電して一方的に本件一の建物で生活をする旨を伝え、同年九月六日、同被控訴人に連絡することもなく妻Cとともに同建物に赴き、翌七日及び八日にその荷物を同建物に運び入れた。控訴人は日蓮正宗に入信していたが亡A及び被控訴人X1が浄土真宗に属する寺の檀徒であったため、亡Aを祀ってある仏壇を取り壊そうとした。このため、被控訴人X1は仏壇屋に右仏壇を預けることを余儀無くされた。また、控訴人は神棚を取り払い、亡Aの遺影を取り去った。さらに、控訴人は、同建物から被控訴人X1の同意も得ずに同被控訴人の生活用品や着物など家の外に出してしまい、物置の鍵も勝手に取替えた。

(5)  控訴人が右の様な行動をとったため、被控訴人X1は、平成元年九月一六日、本件一の建物を着の身着のまま出ざるを得なくなり、被控訴人X3を頼ったが、同被控訴人も妻の母と同居しているため、現在は山形市内のアパートで一人で住んでいる。

控訴人は、被控訴人X1が本件一の建物を出た後、同建物の電話番号、表札、出入口の鍵を替え(この事実は当事者間に争いがない。)、また、この頃、本件二の建物の鍵穴に物を詰め込み、出入口を閉鎖して被控訴人X1の理容業の営業をできなくした。

(二) 右認定の事実によると、控訴人が本件一の建物の占有を取得した状況は、従前から長年月に亙り平穏に同建物を占有してきた他の共有持分権者である被控訴人X1及び同X2並びにこのような同建物の使用形態を容認している同X3と協議することなく、同X1及び同X2を実力で排除するに等しいものであり、控訴人に同建物の共有持分権があっても右は権利濫用と評価されてもやむを得ないものであって、このような事情が存在する場合においては多数持分権者である被控訴人らの少数持分権者である控訴人に対する同建物の明渡請求は許されると解するのが相当である。したがって、再抗弁は理由があり、抗弁1を理由として控訴人は被控訴人らの本件一の建物の明渡請求は拒むことはできない。

したがって、被控訴人らの主位的請求である共有持分権に基づく控訴人に対する本件一の建物の明渡請求は理由があるというべきである。

そして、このように、控訴人の本件一の建物の占有は正当なものではないのであって、これにより被控訴人らの同建物の使用収益を妨げることにより、同被控訴人らに一日少なくとも一二〇〇円を下らない賃料相当の損害を与えているのであるから、控訴人は被控訴人らに対し、その持分の割合に応じ、同建物明渡しまで一日当たり、被控訴人X1に対しては六〇〇円、同X2及び同X3に対し二〇〇円の割合による賃料相当損害金を支払う義務があるというべきである。

二、本件二の建物に対する請求について

1. 被控訴人X1が本件二の建物を所有していること、控訴人が同建物を平成元年九月に占有したことは当事者間に争いがない。

2. そこで、抗弁2につき判断するに、甲二の一、二、一八号証及び被控訴人X1の当審における供述によると、被控訴人X1は控訴人から山形地方裁判所平成二年(ヨ)第五一号建物明渡断行の仮処分決定に基づく執行により、平成二年一〇月一七日、本件二の建物を明け渡したことは認められるが、任意の明渡しとは認められず同抗弁は採用できない。

三、よって、原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 飯田敏彦 菅原崇)

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